
SharePointのバックアップ方法──保持期間の落とし穴と復元の実際
SharePointで誤ってファイルを削除してしまったとき、「ごみ箱があるから戻せる」と考える方は多いのではないでしょうか。たしかに、標準機能で戻せる場面は少なくありません。しかし、戻せる期間と復元の単位は手段ごとに異なり、気づいたときにはすでに戻せなくなっている、ということも起こりえます。
本稿では、SharePointのドキュメントライブラリに保存されたファイルを対象に、標準機能で戻せる範囲、標準機能だけでは復旧要件を満たせない5つのケース、そしてMicrosoftの標準機能の外側にバックアップを持つ考え方を整理します。リストやサイトページ、サイト設定は扱いません。記載は本稿執筆時点(2026年10月)の仕様にもとづきます。
IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」[組織]では、「ランサム攻撃による被害」が1位で、11年連続の選出です。多数のファイルが暗号化・削除されたとき、どこまで戻せるのかを事前に把握しておくことが、備えの出発点になります。
1. SharePointのデータは誰が、どこまで守っているか
SharePointのデータは、Microsoftがサービスを運用し、利用者が自社のデータの保護に責任を持つ、という役割分担になっています。この考え方は「責任共有モデル(Shared Responsibility Model)」と呼ばれます。Microsoftも、クラウドのセキュリティとコンプライアンスはクラウドサービス事業者と利用者の共有責任であり、利用者は、Microsoftクラウド内の自社データを適切に保護する責任を負うと説明しています。
Microsoftが保持する、完全削除後14日間のバックアップ
SharePoint Onlineは、実際の削除(完全削除)から、さらに14日間、すべてのコンテンツのバックアップを保持しています。完全削除とは、第2段階のごみ箱から削除された場合や、ごみ箱などの保持期間が終わった場合を指します。ごみ箱や「ライブラリの復元」で戻せない場合、管理者はこの14日間の期間内であれば、Microsoftサポートに復元を依頼できます。
ただし、バックアップからの復元は、サイトコレクション単位(Microsoftの文書によっては、サブサイトも含むと記載)で、特定のファイル、リスト、ライブラリだけを戻すことはできません。1つのファイルを戻す手段としては、使いにくいといえます。
2. 標準機能で戻せる範囲──手段ごとの期間と単位
標準機能で戻せる期間と単位は、手段ごとに異なります。まず全体を表1で整理します。ここでいう「標準機能」は、契約中のMicrosoft 365ライセンスで利用できる標準的な機能(ごみ箱、バージョン履歴、ライブラリの復元など)を指します。保持ポリシーなどは、プランや対象ユーザーに応じたライセンスが必要です。
| 手段 | 戻せるもの | 期間と起算点 | 復元の単位 | 実行者 |
|---|---|---|---|---|
| ごみ箱(第1段階・第2段階) | 削除したファイル・フォルダー | 元の場所から削除した時点から93日(第2段階へ移っても通算) | アイテム単位 | 第1段階は利用者、第2段階はサイトコレクション管理者 |
| バージョン履歴 | ファイルの過去のバージョン | バージョン設定による(「自動」設定では、ライブラリの復元に使えるのは直近30日以内に作成された最大500バージョン) | ファイル(バージョン)単位 | 利用者 |
| ライブラリの復元(「このライブラリを復元」) | ライブラリ内の削除・上書き・破損したファイルとフォルダー | 過去30日以内の任意の時点 | ライブラリ単位(選んだ時点以降の操作がすべて元に戻る) | サイト管理者 |
| 削除されたサイトの復元 | 削除したサイト | 削除から93日(グループに属するサイトでは、サイト以外のグループのリソースは30日) | サイトコレクション単位 | グローバル管理者・SharePoint管理者 |
| Microsoftサポートによる復元 | 完全削除から14日間のバックアップ | 実際の削除(完全削除)から14日。ごみ箱の93日とは別の、完全削除後の期間 | サイトコレクション単位(文書によってはサブサイトを含む。ファイル・リスト・ライブラリ単位は不可) | 管理者がMicrosoftサポートに依頼 |
| Microsoft 365 Backup(Microsoft 365のライセンスに標準で含まれない、有償の従量課金サービス) | SharePointサイト、OneDriveアカウント、Exchangeメールボックス | ― | ― | ― |
出典:Microsoft「SharePoint data deletion in Microsoft 365」「Restore deleted items from the site collection recycle bin」「Restore a shared library」「Restore deleted sites」「Overview of version history limits」、Microsoft 365 Backupは「Pricing model for Microsoft 365 Backup」。
費用:ごみ箱、バージョン履歴、ライブラリの復元、削除されたサイトの復元は、契約中のMicrosoft 365ライセンスで利用できます。Microsoftサポートによる復元の費用は、公式ページに記載がありません。Microsoft 365 Backupは従量課金(pay-as-you-go)です。
起算点は「元の場所から削除した日」
ごみ箱の93日は、利用者が元の場所から削除した時点から数えます。第1段階のごみ箱から削除したアイテムは、第2段階(サイトコレクション)のごみ箱に移りますが、保持されるのは残りの期間だけで、93日が新たに始まるわけではありません。第2段階のごみ箱から削除したアイテムは、直ちに消去されます。
「ライブラリの復元」はバージョン履歴に依存する
「ライブラリの復元」を使うと、ドキュメントライブラリ全体を、過去30日以内の任意の時点に戻せます。多数のファイルの削除、上書き、破損、マルウェア感染を想定した機能です。
ただし、この機能はバージョン履歴とごみ箱を使うため、バージョン履歴がオフの場合は、ファイルを以前のバージョンに戻せません。また、ライブラリごと削除した場合は使えません(ごみ箱から復元します)。
3. 保持期間の落とし穴──標準機能だけでは復旧要件を満たせない5つのケース
標準機能は、常に戻せないわけではありません。ただし、期間、復元の粒度、復旧の範囲が要件に合わない場面があります。ここでは、事前の備えがなければ要件を満たせない5つのケースを、「状況」「要件を満たせない理由」「事前にできること」の順に説明します。
ケース① 93日を過ぎてから気づいた
状況:年度末に整理して削除したフォルダーが、翌年度に必要になる、といったケースです(想定例)。
要件を満たせない理由:ごみ箱で保持されるのは、削除から93日間です。この期間を過ぎると、ごみ箱からは戻せません。Microsoftサポートに依頼できるのは、完全削除から14日間だけで、復元はサイトコレクション単位です。この期間も過ぎると、Microsoft側でも復元できません。
事前にできること:削除操作の権限を見直し、整理の前に必要なデータを別の場所へ退避するルールを決めておくことです。
ケース② 第2段階のごみ箱が上限を超え、古いものから消えた
状況:大量のファイルを一度に削除した場合などです。
要件を満たせない理由:第2段階のごみ箱にはクォータ(上限)があり、削除したアイテムによって上限を超えると、最も古いアイテムから順に消去されます。第2段階のごみ箱に割り当てられる容量は、サイトコレクションのクォータの200%です。これとは別に、サイトのごみ箱の容量は、サイトコレクションのストレージ クォータに含まれます。
事前にできること:大量削除の前に、対象と影響範囲を確認する手順を決めておくことです。
ケース③ 必要なバージョンが間引かれていた
状況:上書きを繰り返した資料を、以前の内容に戻したい場合です。
要件を満たせない理由:バージョン履歴には「自動」と「手動」の設定があり、「自動」設定で間引かれたバージョンや、有効期限を過ぎたバージョンは、完全削除の対象になります。一度削除されると、ごみ箱から復元できません。ライブラリに設定した上限を超えたバージョンも、ごみ箱を経由せずに完全削除されます。バージョンを削除するトリミングのジョブも同様です。なお、利用者が自分でバージョンを削除した場合は、サイトのごみ箱に移ります。
事前にできること:バージョン履歴の設定は、組織、サイト、ライブラリの単位で変えられます。設定の現状を確認し、必要なバージョンが残る設定になっているかを見直してください。バージョンを減らすと容量は空きますが、戻せる範囲も狭まります。
ケース④ ごみ箱やバージョン履歴では戻せず、1ファイルだけ戻したい
状況:特定のファイルだけを、以前の状態に戻したいが、ごみ箱にもバージョン履歴にも、必要な状態が残っていない場合です。
要件を満たせない理由:ごみ箱やバージョン履歴で戻せない場合に残る手段は、復元の粒度が粗いものです。Microsoftサポートによる復元は、サイトコレクション単位で、ファイルを指定して戻すことはできません。「ライブラリの復元」を使う場合も、選んだ時点以降に行われたファイルとフォルダーの操作がすべて元に戻ります。戻したくない他のファイルの更新も、巻き戻る可能性があります。
ランサムウェアの被害調査と復旧に時間がかかると、「ライブラリの復元」の30日や、Microsoftサポートの14日の期間を過ぎてしまう可能性があります。
事前にできること:1つのファイルなら、まず、ごみ箱やバージョン履歴で個別に戻せるかを確認します。ファイル単位で復元できるバックアップを持つことも選択肢です(5章)。
ケース⑤ 同期しているPC側の削除が、SharePointにも反映された
状況:OneDrive同期アプリでPCと同期しているライブラリで、PC側のファイルを削除した場合です。
要件を満たせない理由:同期は、PC側とSharePoint側を同じ状態に保つ仕組みで、一方での削除や変更が他方にも反映されます。クラウドから削除されたファイルは、OneDriveまたはSharePointのWebのごみ箱から復元できます。ただし、復元できるのは、SharePointのごみ箱の保持期間(93日)の間です。期間を過ぎた場合や、ごみ箱を空にした場合は戻せないため、同期はバックアップの代わりにはなりません。
事前にできること:同期の対象とは別の場所に、コピーを持つことです。
4. 保持ポリシーはバックアップの代わりになるか
保持ポリシーは、コンテンツを一定期間残す、または一定期間後に削除するための仕組みです。時点を指定して元の場所へまとめて戻すバックアップとは、役割が異なります。
SharePointでは、保持ポリシーの対象になっているアイテムについて、ライブラリに設定したバージョン数の上限は無視され、保持期間が終わるまでバージョンが残ります。これは、ケース③への備えの1つになります。
一方で、保持ポリシーは管理者が設定する機能です。保持ロック(Preservation Lock)を使っていない場合は、保持期間の短縮やポリシーの削除を、管理者が行えます。保持ロックを適用したポリシーは、グローバル管理者であっても、無効化、削除、制限の緩和ができません。
5. SharePointのバックアップ方法──3つの選択肢
SharePointのデータを守る方法は、大きく3つに分けられます。表2で比較します。
| 方法 | 戻せる期間 | 復元の単位 | 運用負荷 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| ① 標準機能の設定と運用ルールを見直す | 表1の各期間(ごみ箱は93日など) | 表1のとおり(アイテム、ライブラリ、サイトコレクション) | 設定の確認と、運用ルールの整備 | 契約中のライセンスで利用できる(保持ポリシーは、適切なライセンスが必要) |
| ② 手動でファイルをダウンロード・コピーする | コピーを保管している間 | 取得したファイル単位 | 手作業が継続的に必要 | 運用の工数 |
| ③ Microsoftの標準機能の外側にバックアップを取る(サードパーティ製品) | 製品の保存期間の設定による | 製品による(例:365 Total Backupは個別ファイルを選択して復元可能) | 製品側で自動化 | 製品による |
| (参考)Microsoft 365 Backup(Microsoft 365のライセンスに標準で含まれない、有償の従量課金サービス) | ― | ― | ― | 従量課金(pay-as-you-go) |
出典:Microsoft「Pricing model for Microsoft 365 Backup」、Hornetsecurity「365 Total Backup」。②は本稿での整理。
① 標準機能の設定と運用ルールを見直す
バージョン履歴の設定、ごみ箱を空にする操作の権限、保持ポリシーの設計を見直す方法です。契約中のプランの範囲で始められますが、表1の期間と単位を超えて戻すことはできません。保持ポリシーの利用には、適切なライセンスが必要です。
② 手動でファイルをダウンロード・コピーする
重要なファイルを、定期的に手動でダウンロードし、別の媒体へコピーして保管する方法です。保全できるのはファイルの内容が中心で、権限、バージョン履歴、サイトの設定は、別に管理する必要があります。小規模・一時的な用途に限られます。同期フォルダーはバックアップになりません(ケース⑤)。
③ Microsoftの標準機能の外側にバックアップを取る
標準機能の外側に、別のコピーを持つ方法です。製品を選ぶときは、次の6点を確認してください。
- 保管場所が、Microsoftのテナントから分離されているか
- バックアップ側の認証が、テナントの管理者権限から分離されているか
- 保持期間を、業務の要件に合わせて設定できるか
- バックアップデータが暗号化されているか
- 復元の粒度が、ファイル単位まで細かいか
- 対象範囲に、ドキュメントライブラリ以外が必要な場合は含まれているか
6. よくある質問
SharePointで削除したファイルは何日まで復元できますか?
元の場所から削除した時点から93日間、ごみ箱(第1段階と第2段階の合計)から復元できます。第2段階が上限を超えると、93日より前でも古いものから消去されます。
SharePointのサイトを削除してしまった場合、復元できますか?
削除から93日以内であれば、グローバル管理者またはSharePoint管理者が、SharePoint管理センターの[削除済みサイト]から復元できます。
Microsoftに依頼すれば、バックアップから復元してもらえますか?
完全削除から14日以内であれば、管理者がMicrosoftサポートに依頼できます。ただし、復元はサイトコレクション単位(Microsoftの文書によっては、サブサイトも含むと記載)で、特定のファイルだけを戻すことはできません。
OneDriveで同期していれば、SharePointのバックアップになりますか?
なりません。同期では、一方での削除や変更が他方にも反映されます。削除したファイルは、SharePointのごみ箱の保持期間(93日)内であれば復元できますが、期間を過ぎた場合や、ごみ箱を空にした場合は戻せません。
バージョン履歴はいくつまで保存されますか?
ライブラリの設定によります。「自動」設定では、ライブラリの復元に使えるのは、直近30日以内に作成された最大500バージョンです。「手動」設定では、主要バージョンの数と有効期限で上限を決めます。設定画面では、100バージョン未満、30日未満には設定できません。
7. まとめ
SharePointのデータは、標準機能で一定の期間は戻せます。しかし、それぞれに期間と復元の単位があり、期間を過ぎた場合、上限を超えた場合、バージョンが間引かれた場合などには、戻せなくなります。
バックアップが必要かどうかは、自社で起こりうる事故を表1に当てはめ、空白が残るかどうかで判断できます。空白が残る場合は、標準機能の外側にコピーを持つことを検討してください。
標準機能の外側に、SharePointのバックアップを持つ
表1の期間と単位を超えて戻したい場合は、Microsoftとは独立したデータセンターに保管するバックアップが選択肢になります。

Hornetsecurity(ホーネットセキュリティ)の365 Total Backupは、SharePointドキュメントライブラリを含むMicrosoft 365のデータを、自動でバックアップするサービスです。バックアップは1日に複数回、自動的に取得され、Microsoftとは独立したHornetsecurityのデータセンターに保存されます。SharePointの個別ファイルを選択して復元できます。日本語サービスページでは、ストレージと保存期間が無制限と案内されており、保存期間は、社内の要件に合わせてカスタム設定できます。ソリューション、ストレージ、24時間365日のサポートは、すべて料金に含まれます。
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※SharePointの対象は、ドキュメントライブラリです。

バックアップは、最後の砦
前段の防御は十分ですか?
ランサムウェア攻撃でデータを損失した企業は、2024年には3社に1社近くに。戻せる備えと、戻さずに済む備え。この二つを組み合わせることが、いま求められる対策です。
本資料では、フィッシングやパッチ未適用などランサムウェアの主な攻撃経路を整理し、メールの防御・なりすまし対策・アクセス権管理・セキュリティ教育・データ保護という5つの層で「点ではなく面で守る」多層的なセキュリティ対策を解説します。